2006年 07月 05日
幸福論 |
私のお気に入りの本の一つに精神科医の春日武彦という人が書いた「幸福論」というものがある。本が出た頃に新聞の書評かなにかで知って面白そうなので読んでみたのだが、幸福のかけらのような12のエピソードが語られていて、どれもが地味だが魅力的な小説か映画のワンシーンのようでとても共感した。
たとえば「時代に取り残された」「場末の」「ちょっとうらぶれた」そういう形容詞のつきそうな場所で思いがけず遭遇する些細なできごと。たとえば何かのきっかけでよみがえる子供時代の感覚。そういったものに感動し、しみじみとした喜びを感じたという12のエピソードだ。
そのエピソードの一つに、湖に浮かぶ白鳥の形の遊覧船を見て著者が想像で作り上げたある家族の話がある。
白鳥の遊覧船の船長の一家が湖のほとりに住んでいる。まだ幼い息子は父親がいつも見るその船の船長であることが嬉しいだろう。だがやがて父親がそんな子供だましの船の仕事をしているということに恥ずかしさを感じるようになる時期がきて、父親への反抗心が起きるだろう。
「そしてさらに年齢を経れば、父が誠実に遊覧船の船長として長い年月を送ったことに深い感慨が生ずることだろう。小馬鹿にしていた白鳥形の船に対しても、和解にも似た感情が生まれてくるのではないだろうか。そんな一家の歴史を勝手に想像しながら、あのキッチュな白鳥の遊覧船はあながちくだらぬ存在ではなく、結局のところは幸福をもたらす船なのかもしれないなあ、などとわたしは考えたのであった。」(「幸福論」 春日武彦著 講談社現代新書より)
先日山中湖へ行った時にも、白鳥の形の遊覧船は湖を航行していた。
私は春日武彦の想像したこの一家の物語を思い出した。
そして船着き場に到着したこの船から幾組かの小さな子供連れの家族が降りてくるのを見て、やはりしみじみとした感動を覚えた。
たとえば「時代に取り残された」「場末の」「ちょっとうらぶれた」そういう形容詞のつきそうな場所で思いがけず遭遇する些細なできごと。たとえば何かのきっかけでよみがえる子供時代の感覚。そういったものに感動し、しみじみとした喜びを感じたという12のエピソードだ。
そのエピソードの一つに、湖に浮かぶ白鳥の形の遊覧船を見て著者が想像で作り上げたある家族の話がある。
白鳥の遊覧船の船長の一家が湖のほとりに住んでいる。まだ幼い息子は父親がいつも見るその船の船長であることが嬉しいだろう。だがやがて父親がそんな子供だましの船の仕事をしているということに恥ずかしさを感じるようになる時期がきて、父親への反抗心が起きるだろう。
「そしてさらに年齢を経れば、父が誠実に遊覧船の船長として長い年月を送ったことに深い感慨が生ずることだろう。小馬鹿にしていた白鳥形の船に対しても、和解にも似た感情が生まれてくるのではないだろうか。そんな一家の歴史を勝手に想像しながら、あのキッチュな白鳥の遊覧船はあながちくだらぬ存在ではなく、結局のところは幸福をもたらす船なのかもしれないなあ、などとわたしは考えたのであった。」(「幸福論」 春日武彦著 講談社現代新書より)
先日山中湖へ行った時にも、白鳥の形の遊覧船は湖を航行していた。
私は春日武彦の想像したこの一家の物語を思い出した。
そして船着き場に到着したこの船から幾組かの小さな子供連れの家族が降りてくるのを見て、やはりしみじみとした感動を覚えた。
by min_y
| 2006-07-05 19:22
| 本
|
Comments(2)
ここのお気に入りのカテゴリーのところをずっと拝見してたら、楽しくなります。タミーちゃんや着せ替え人形など、なつかしいものばかり。
湖に浮かぶ白鳥の形の遊覧船の話、とても素敵です。心に響きます。
湖に浮かぶ白鳥の形の遊覧船の話、とても素敵です。心に響きます。
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min_y at 2010-01-01 01:46
miraさん
新年おめでとうございます。
miraさんもタミーちゃんをご存知な世代なんですね。嬉しいです。
春日武彦「幸福論」、そちらで手に入るかどうかわかりませんが、機会があったらぜひ読んでください。
白鳥の遊覧船の他にも素敵なエピソードがいくつもあるんですよ。
miraさんだったらきっと共感なさると思います。
新年おめでとうございます。
miraさんもタミーちゃんをご存知な世代なんですね。嬉しいです。
春日武彦「幸福論」、そちらで手に入るかどうかわかりませんが、機会があったらぜひ読んでください。
白鳥の遊覧船の他にも素敵なエピソードがいくつもあるんですよ。
miraさんだったらきっと共感なさると思います。